無音の聖譚曲 (オラトリオ)









             170億年前。
                ひとつの宇宙が始まった。
                飽くことなく膨張し続ける宇宙。
                それは。


                生命が。

                想いが。


         具現化したものなのかもしれない。








                        



     
            「物事を考察するとき。」

      常人をはるかに超える知能を持った幼子に父は言った。

            「知識に囚われすぎてはいけない。たとえ荒唐無稽と思われても、
                 あらゆる事象を想像するのだ。

                『想像力』は、『創造する力』だ。」
    







                       ☆

                    



                  



 その大船団が母星を離れ、すでに1000年が過ぎた。
 いくつもの星雲を越え銀河を渡り、船団は途中でそれぞれの意志で別れ、各々が選んだ星に降り立って行った。
 広大な宇宙。
 再び会い見えることは叶わぬであろう同胞。それでも。
 生命が続く限り、想いが消えることはない。



 最後の船団が大地に降りた。
 ある渦状銀河の、中心から離れた太陽系の第3惑星。青く輝く美しい、水の惑星。
 この星の先住者はいまだ定住地を持たぬ狩猟民で、少数単位で洞穴にすみ、道具といえば石や木々を使った簡単なものでしかなかった。だが、火を使用し、意思疎通できるほどの最低限の言語を持っていた。あと1万年もすれば、確実にこの星の支配者となるだろう。
 宇宙からの訪問者たちは、宇宙船をすべて赤道付近の大洋に浮かべた。それぞれを連結させ、海底に支柱を撃ちこみ安定させる。付近の島々を従えて、巨大な島国となった。
 未開の星に突如誕生した、高度な文明。
 いまだ海を渡る術を持たぬ先住者たちとは切り離された世界。
 宇宙空間で1000年の長きに渡って自給自足の生活を可能にしてきた宇宙船は、そのドームを開き、太陽の光を充分に取り入れた。植物は輝くばかりの生育を始め、美しい花々や香り高い果物をたわわに実らせる。溢れるほどの食べ物に満ちた様は、先住者たちが目にしたならば、「楽園」と映っただろう。
 その楽園で訪問者たちはひっそりと生活を始めた。
 ときおり飛行艇を飛ばし、この星の調査をすることはあっても。
 いずれこの星の支配者となるだろう種、「ヒト」と名付けた先住者とは触れ合わないように注意しながら。

 そして時は流れ、500年が過ぎる。
 
        


 


 「ゼス、狩りに行こうぜ!許可は取った!」
 バタン、と大きな音をたててドアが開かれる。金色の髪の若々しい偉丈夫が入ってくる。
 「相変わらず暢気な奴だな。狩りよりも調査だろが。遊ぶなよ。」
 呆れたように返すのは黒髪の美丈夫。
 「そうだけどさ、外に出る機会なんて滅多にあるもんじゃないからな。こんなチャンス、逃せるもんか。」
 白い歯を見せて笑う。
 「今回はロキとトールも行くんだ。ヒトの道具を使った狩をしてみようって言ってるんだ。」
 「ロキとトール?ドラゴンでも捕まえるつもりか?」
 「出てきてくれりゃいいんだけどな。ま、マンモスで我慢するさ。」
 快活にそう笑うと、入ってきたときと同様、陽気に部屋を出て行く。
 やれやれとゼスは、机に広げていた書類を片付け、上着を羽織って部屋を出ると廊下を急ぐ。一気に地上部に向かう専用エレベーターに乗り込むとボタンを押した。



 
 美しい街並。
 居住区はほとんどが地下層部にあるため、地上部は特別の建物以外、突出した物はない。小川が流れ、噴水がきらめき、緑の公園が広がっている。快適な生活が約束された都、ミヨイ。
 飛行艇に乗り込み司令塔に向かう。三角錐のその巨大な建物は、この星で唯一、宇宙に向かう「窓」だ。


 「よう、ゼス。調査だって?」
 「やあ、シノン。最近よく呼びつけられるんだけど。何かあったのか?」
 観測室を覗き込んだゼスは、解析値を入力中のシノンに声をかけた。
 「さぁね。数値上は特に目立ったものはないけどな。まあ、俺の知力じゃ高がしれている。長老たちは何か考えているようだけどな。この間からオーディンやカーリーも呼ばれてるぜ。」
 「オーディンが?あいつ、体の調子が悪いんじゃなかったか?」
 「そのようだな。青い顔してる。でも、ほとんど塔に詰めてるぜ。」
 「・・・・・・・・ふ〜ん。じゃあ、俺も真面目に調査活動といくか。だけど、今回はロキやトールが一緒なんだよな。」
 「へえ。そりゃ楽しそうだ。俺も行きたいなあ。」
 「楽しむのはあいつらだよ。あいつらのデータ集めの荒っぽいことといったら・・・」
 「始末書書くのはお前だもんな。」
 くっくっくと楽しそうに笑う。
 「おい、代わってやるぞ。」
 「やなこった。せいぜい立派なデータを期待してるさ。」


 ゼスは司令室に向かいながら考える。
 自分達はこの星の居候だ。この星はこの星で生まれた生命体のものだ。自分たちの干渉は不必要なことだ。
 この星に降りて500年。その間、調査といっても「見る」だけだった。監視カメラを仕込んだロボット鳥による高空からの「目」。そして水質調査や地質調査などだった。この星の住民である「ヒト」への接触は極力避けられていた。
 だがこの10年。上層部は「ヒト」に対し、異なる存在である自分たちの存在を匂わせるようになった。
 嵐でヒトが漂流してきたとき、今までなら治療したあと記憶を消して陸地に戻していたのに。
 今はこの都市・ミヨイで体を回復させた後、記憶を消さずに帰している。ただし、もともとミヨイに辿り着く者は滅多にいないから、その数は微々たるものではあった。それを昨今ではわざわざ調査隊と称して自分たちをヒトの住処の近くに派遣し、そこで傷を負ったり病に倒れて捨てられた者を救うように指示した。九死に一生を得たヒトは、我らの姿を見て驚き、怖れ、そして敬うようになった。彼らにとっては「神」とも思える超越した我ら一族。そんな存在が共にいて、彼ら自身の、種の進化に良い影響のあろうはずがない。長老たちは何を考えているのだろう。


 もやもやとした思いに捉われているうちに司令室に着いたことに気づかず、しばらくドアの前に立ち尽くしていたようだ。
 「ゼス、入りなさい。」
 部屋の中から声が掛けられ、あわててドアを開ける。
 「失礼いたしました、クロノス長老!」
 長老と呼ばれた壮年の男は、バツが悪そうにうつむくゼスを柔らかな表情でみつめた。
 「お前の不審はよく解る。」
 ゼスは直立不動の姿勢をとった。長老と呼ばれる人々は感応力を持っている。先程からのゼスの葛藤は丸聞こえだったのだろう。
 「硬くなるな、ゼス。そちらのソファに座れ。」
 クロノスは自分もソファの方へ歩く。ゼスは顔を赤らめながらも同様に座る。
 「も、申し訳ありません。」
 「いいや、ゼス。お前の不審はもっともだ。他にも気づいている者はおるだろう。それでよい。むしろ、疑問を持たぬ者のほうが嘆かわしい。いくら自分たちの生活が、安定したものと信じ込んでいるとしても。」
 クロノスはテーブルに置かれた杯を差し出す。ゼスはその杯を満たすと自分にも並々と注ぐ。
 クロノスはぐっとその杯を飲み干すと、ゼスに向かって言った。


    「彗星が来る。」

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 「ゼス。お前はいくつになる?」
 唐突に聞かれてゼスは戸惑った。
 「は、はい・・・・・・2520歳くらいですが・・・・たぶん・・・。」
 「そうだな。我らの平均寿命は3000年を越える。我らが母なる星を離れたのは、お前が1000歳の頃だ。あのとき、星はひとつの選択をした。」
 


 
 10万年を越える高度な文明。
 すでに植民星は数知れず、母星は科学の粋を極め、人々は生きるための何の努力も必要としなかった。平穏に過ぎていく毎日。だが。
 いつのころからか。
 寿命が3000年を越えるようになった頃から、新たな生命の誕生は稀になった。
 長寿の者の中には5000年を生きる者もあった。老いはその晩年近くにならねば訪れることはなく。
 それを「幸い」と浮かれている間に。

  滅びへと向かっていた。

 
 「我々は大慌てで様々な手を打った。医学は勿論、遺伝子研究も再考され、他の星の種族との交配さえも試された。だが、子供は生まれなかった。」
 一葦の望みに縋り『時』を重ねた日々。
 そして、1000年の間に一人の新たな命を生み出すことの出来なくなった種族は、決断した。
 滅びを受け入れることを。


 「我々はすべての植民星から手を引いた。滅びる種族が他の種族に干渉するべきではない。手助けなどおこがましい。そして我々は二つに分かれた。そのまま母星に留まり最後を迎える者と、宇宙に船出しまだ見ぬ世界を訪ねたいと言う者とに。
 未知の宇宙空間で、そのまま滅しようとかまわない。せめて夢、らしきものを見たいのだと。」

 1000年に渡るの宇宙の旅。高度な文明を持つ者達においてさえ、気の遠くなる長い歳月。

 それでも「明日を持たぬ種」にとって、「何かあるはず」との期待は込められて。

 「この星にたどり着いて、溢れる命を、これから先の輝く命を目にした。その美しさに触れることが出来ただけでよかった。我々はもう1000年ほどで消える。だからこの星の進化に手を出すことなく、ひっそりと見守っていくだけのつもりだった。」
 そう。だからゼス達は。
 この星の何ものにも関与することを禁じて生きてきたのだ。
 ヒトの脳は、文明を解するにはまだまだ遠く、ゼス達の存在は悪霊のようなものだろう。
 ゼス達の自己満足のために、文明をちらかせる必要はない。

 「だが、観測により、ひとつの彗星がこの太陽系を過ぎることがわかった。その影響で大洪水や噴火が予測される。このままではヒトは壊滅的な打撃を受け、進化は一挙に数万年を後退するだろう。せっかくここまで進化した種族を、無にすることは苦しい。」
 「その彗星はいつ来るのですか?破壊、もしくは軌道を逸らすことはできないのですか?」
 「我らの科学力の総力を挙げて検討したが、無理だ。あの質量と、なによりもあのスピードでは途中で軌道を変えることはできない。母星の設備があれば可能だったが・・・・・・・ないものは仕方がない。彗星の来る時期はあと3年。あるいはもっと早くなるかもしれぬ。」
 「ですが、ヒトはこの星に小単位で広く分布しています。私たちの人数ではとても集めきれません。」
 「だから我らは短期間で彼らを掌握するために、絶対者として彼らの前に現れることにした。神としてでも魔としてでもいい。とにかく彼らに恐れを抱かせ、指示にしたがわせるために。奇跡でも何でも起こすのだ。」
 「そんなことをして、あとの進化に影響は出ませんか?」
 「影響を怖れるよりも何よりも、滅びてしまえば元も子もない。大丈夫だ。我らが姿を現すのは彗星が遠ざかるまでだ。その後は一切姿を見せぬ。ヒトの寿命は短い。3代も過ぎれば、伝わる記憶すらなくなるだろう。」
 「わかりました。・・・・・・・でも、嬉しいことです。」
 「うん?」
 「我々がこの星に来たことで、この星の命を救うことが出来るのですから。自分が生まれてきたことに、何らかの理由があったのだと感じることができました。」 
 「おお、そうだな。この星の未来に貢献できて何よりだ。わしはすでに3000歳をすぎている。さっさと終わりが来ないものかと思っていたが、このためにこそ生かされていたのだと思うと、ひどく嬉しい。」



 ミヨイに住む者すべてに彗星の訪れと、その影響による地殻変動が伝えられ、この星の「種」を守るための計画が発表された。
 人々は驚喜した。
 ひっそりと、ただ滅びに向かうためだけに生きている無意味な生。それが未来へ続く命を守るためへと変化した。
 この星の未来に自分達はいないけれど。
 それでも命の連鎖に関われる喜び。



 連結されていた宇宙船がいくつか外され支柱を離れた。ミヨイ号に次ぐ大きな宇宙船、アトランティス号は西の大洋へ。3、4番目におおきなアルカディア号とアガルタ号もそれぞれヒトの数の多い地域の海洋に投錨された。そしてそれらを拠点にヒトへの関与が始まった。
 暑さも寒さもひもじさも知らぬ楽園。そこに住む万能の存在。
 その存在は優しく、なれど従わぬものには恐怖の裁きを下す。ヒトは恐れ、敬い、憧れ、集団を膨らませながら集まってきた。




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 「彗星はあと1月以内に太陽系に到達する。皆のおかげで何とかヒトを集結させることができた。それぞれの宇宙船にヒトを乗せ、指定の場所に避難するように。」


 クロノスの言葉に、集まっていた各船の責任者達はターミナルに向かう。
 「あれ、ゼス。お前はミヨイを操船するんじゃなかったか?」
 不思議そうに声をかけてきたのはロキだ。
 「ああ、その予定だったんだが、アトランティス号のオーディンが高熱を出してな。代わりに行くことになった。ミヨイは長老たちが動かすんだ。」
 「オーディンは観測員も兼ねてたからな、無理したんだろう。ミヨイの避難場所はナスカだったな。あそこなら平坦だし広いから、長老の腕でも大丈夫だろうぜ。」
 「聴こえるぞ。操船に関しちゃ、あの人たちは依怙地になるぜ?」
 「おっと、まずい。地獄耳だからな。でも、俺としちゃあ、お前が近くにいるのは心強いぜ。」
 「おまえは隣のアルカディア号だったな。よろしく頼むよ。」
 「すべてのヒトを宇宙船に乗せきることが出来たならな。彗星が来る間、宇宙空間に避難すれば簡単だったんだけど。さすがに星ひとつの人数は乗り込めないな。」
 「さっそく高地へのピストン輸送を始めよう。時間はギリギリだ。」
 「なんかあの彗星、スピードを上げているそうじゃないか。」
 「軌道がずれて来ていないのが幸いだ。」
 「まったくだ。こっちに突っ込まれちゃ、冗談にもなりゃしない。さっさと見送って、のんびりしたいよ。」
 



    太陽系に現れた彗星は、
    予測されていた軌道を大きく逸れた。
    まるで最初から狙っていたかのように
    第3惑星をまっすぐ目指し。
    途中、小さな第5惑星を砕いた。
    凄まじい豪雨。溢れる海。噴火する山々。割れる大地。

  彗星が地表に衝突する前に、せめて各船だけでも宇宙へ脱出させようと長老たちが決断したとき。



       彗星は 大地に着陸した。

       そしてマグマをも凍らせる冷気が放射された。 
       
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 創世記892年。

 我々がこの星、地球に着いて1400年が過ぎた。今、地球には2つの「種」がある。
 この地球の本来の種であるヒト---「人類」と、人類から「神」と呼ばれる我が一族だ。
 我々は地球からはるかに離れた銀河から来た。我らが母星を旅立ってからすでに2400年が過ぎている。今、母星で生きている者はおそらく皆無だろう。
 3000年を越える平均寿命を持つ我が一族。だが今この星に残っているのは私一人だ。私も3400歳を過ぎている。いつ、命が終わるかわからない。最後のひとりとなった私は、記しておかなければならないことがある。
 遠い未来、遥かな明日。
 
      この星の命を 守るために。


 あの日、宇宙から飛来したのは彗星などではなかった。
 あれは宇宙船だったのだ、生命エネルギーを貪る悪魔を乗せた。
 その悪魔は宇宙船の壁を浸透し、一瞬のうちに我らに取り付き命を吸い取った。悪魔を倒そうと放たれた武器は船の内部を壊し、コントロールを失った船は爆発し、大地に散らばり、あるいは海に沈んだ。
 最大の宇宙船・ミヨイが襲われたとき、私は他の船にいた。爆発、炎上して海に沈んでいくミヨイ。その映像を目にした私は、地殻変動の混乱の中、後の事を仲間に任せ、一機、高速艇でミヨイを目指した。
 渦巻く大洋。跡形もないミヨイ。
 必死で仲間の名を呼び続けた私に、かすかな応答があった。
 「オーディン!!」
 波の間に間に浮き沈みしている一個の救命ポッド。急いで引き上げカプセル開く。オーディンともう一人、クロノス長老が折り重なっていた。
 「大丈夫か、オーディン。何があった!?」
 気を失っているクロノス長老は後にし、矢継ぎ早に尋ねる。オーディンの体は燃えるように熱かった。焦点の定まらぬ瞳、息をするのも苦しそうだったが、この際、落ち着いては聞いていられなかった。
 「・・・・わからない・・・・・俺は医務室で寝ていて・・・・・・・・急に騒がしくなって、すぐに激しく船が揺れて・・・・・」
 絞り出すように続ける。
 「慌てて部屋を出て、誰かに尋ねようとしたが、誰もいなくて・・・・・・あたり一面に、どろどろした真っ黒な塊が蠢いていて・・・・・・」
 恐る恐る近づくと、それはサァーっと後退し、壁に吸い込まれ・・・・・・・・あとには朋輩が倒れていた・・・・・・ミイラ化した・・・・。
 「おい、オーディン、しっかりしろ!!」
 「管制室に行こうとしたんだ。だが、次々と爆発が起きて通路が封鎖されて・・・・・・やむを得ず戻ろうとしたとき、クロノス様がよろめきながら歩いているのを見たんだ。俺はとても飛行艇を操縦出来る有様ではなかったから、格納庫に行くのを諦め、医務室に向かい、クロノス様を引き摺って救命ポッドに押し込み発射ボタンを押した。」
 苦しい息でそれだけを告げると、オーディンは意識を失った。
 「おい、オーディン、しっかりしろ!!」
 と、クロノスが目を開けた。
 クロノスはゼスと目が合うとすぐさま叫んだ。
 「ゼス、他の船は!!?すぐにすべての船を宇宙に飛ばすのだ!行き先などどうでもよい、とにかくこの星から脱出させろ。今すぐに!!」
 「長老、落ち着いてください、何がなんだか・・・」
 「急げ、バラバラに脱出するんだ、死ぬぞ!!」
 温厚なクロノスのあまりにも凄まじい形相に、ゼスは疑問を飲み込み各責任者に連絡をとる。
 「ロキ、トール、ハデス!カーリー!!」


          返ってくる言葉はなかった。


               ☆


       ★
 
 
  
            ★





 我らはミヨイ、アトランティス、アルカディア、アガルタ、そしてほとんどの同胞を失った。遺されたのはわずかな同胞と最後の一隻、オリュンポス号。だが、同胞の中にはロキ、トール、ハデスやカーリーがいた。彼らはその強靭な精神力で身を守った。ロキとトールは数十人の同胞をも守り得たのだ。爆発炎上するアトランティス号の中、ぎりぎりの高熱に耐え、悪魔たちが去ったあと、すみやかに脱出した。その忍耐力と、敵の弱点をすばやく見抜いた冷静で正確な観察眼。本能に忠実で野蛮な奴らだと嘲笑されていた彼らが、一番、強かったのだ。
 大地に着陸した途端、直ちに冷却エネルギーを放出して星を冷やした悪魔たち。ひたすら熱に弱いという事実に、もっと早く気づいていたら。
 失うものも少なくて済んだだろうに。
 だが、今はそれを嘆く時ではない。
 伝えなければならない。
 人類はいずれその知能を高め、高度な文明を得ることが出来るだろう。そのときふたたび来襲する悪魔の存在を。
 だが、どうすればいいのか。
 人類はまだまだ科学を理解することすら出来ない。人類の「脳」が発達するには、少なくともあと1万年は必要だろう。
 我らはあと1000年持たぬ。永い年月に伝説は途絶え、記憶は消滅するだろう。文字も絵も意味を成さない。
 絶望が我らを覆いつくした。この星は、その文明の頂点に辿り着いたとき、すべて消えるだろう。望みも夢も、優しさも。
 

     子供が生まれた。
     ロキとヒトの間に。 


 何千年という時間。一度たりとも繋がらなかった命の連鎖。


 
 我らとヒトの間に、次々と子供が誕生した。
 それらの子供はほとんどが 「ヒトの時間」 しか有しなかったが。 
 その知能も、ヒトのものではあったけれど。

 私は確信している。
 いずれ、あの彗星が来襲しても。
 我らの血を引く者たちがこの星の命を守ると。彗星を撃破し、すべての命を守ると。   
         
   

             


   
この記憶を私はこれに記す。
  我が母星のみで産出される鉱石、母星の名を冠する鉱石、「オリハルコン」
  オリハルコンに記される記憶は、書き綴った者と同等の知力を持つ者のみが読むと云う。私は長老クロノスが記した記録までしか読めない。クロノス長老の父、ウラノスが記した記憶は読めぬ。私の記憶を読む者は、我らが星、オリハルコンのことを知るだろうか。
 私は願う。もしも、私よりも知力を持つ者が、この記憶を読むならば。
 その者は気にかけてくれるだろうか、はるか昔に我らと分れた星のことを。
 私の親友と、その恋人の住む星を。
 白鳥座に属する星の、あの美しい人の記憶を。
 私は祈る、この星のすべての命と、
 かの星のすべての命の幸いを。

          祈る。

                                  オリュンポスにて           ゼゥス記







                      ☆

                      ☆ 

                      ☆




 
         サコンは今まで解析していたペンダントを首にかける。
           彗星を破壊するためのミサイルを考える。
           今、自分がやるべきことを

                    為すために。


               遠いつぶやき は、今は聞かない。 

 






        -------*--------*--------*--------




     ゑゐり様  19500 リクエスト

       お題は   「大空魔竜 ガイキングで、サコンのご先祖様の話  」

   おおっと。随分遅れてしまいました!!
   ゑゐり様の 「いいよ、いいよ、」のお優しい言葉に甘えまして。
   こんなに遅れてしまいましたよ。というか、「内容がこれッ??!」
  
        すみません・・・・・・・

 
 ギリシャ神話やローマ神話。神々ってやけに人間臭くて浮気性・・?
 ああ、子孫を作らなきゃならなかったんだ。といったら、奥さんが可哀想だけど。
 神話では女神たちも恋多かったですよね〜〜〜



 アトランティスがあったのは大西洋とか地中海とか、いろいろ説はあるけれど。
 移動する古代大陸だったとすれば頷ける。みんな正しく、みんな「良し」。
 あっ、そうそう。「ミヨイ」と言うのはムー大陸のことだそうです。高橋克彦氏の『新・竜の柩』によりますと。
 「竹内文書」とか。 詳しいことは調べておりません。えへ。

            (20008.10.25    かるら)